42. フリーグリップと、しゃっ骨&とう骨

STEP3 バディ・リッチの秘密

それでは、ここで次の動画をご覧下さい。

動画:バディ・リッチのシングルストローク

ちょこっと言い訳(笑)
デニス・チェンバースの動きは身体理論的に見て、まだ曖昧な部分が多いため再現しやすいですが、バディ・リッチはあまりにも身体理論の理屈にかない過ぎていて、小野瀬でも100%は再現しきれないのです。m(__;m

これはバディ・リッチが、彼の楽団の名曲『ウエストサイド・ストーリー』の後半部に必ず行う、バディ・リッチ十八番の、全編シングルストロークによるドラムソロの再現です。

このシングルストロークに隠された秘密に気付けましたか?

フレンチ・アメリカン・ジャーマンと一般的に言われる、どのグリップで演奏しているように見えたでしょうか?(日本的奏法の、フレンチ・アメリカン・ジャーマンで考えないで下さいね!)

答えを言ってしまうと「すべて」です。振り上げと振り下げで、グリップは多種多様に変化するのです。

ですので、本来はフレンチ・アメリカン・ジャーマンという考え自体を持たない方が良いのですが、わかりやすく説明するために、便宜上使う事とします。

人体力学トリビア2:「体内再現」とは!?

「体内再現」とは、人体力学に基づいて、骨や関節や腱、内臓等、身体の“内部”にあるものの動きを再現する事を言いますが、「意味不明」だという方のために、分かりやすく説明しましょう。

例えば、「肩」と「ヒジ」と「手首」を同時に動かそうとした場合、すべてを完全に同時に動かすことは、物理上不可能です。では、それをどういう順番で動かすのか?また、ヒジを伸ばす時に、重力で伸びるのか、円運動によって生じる回転反動力で伸びるのか、はたまた筋肉で伸ばすのか…etc…を探り、再現することです。

※戦国時代、本当に命を落とす危険性と隣り合わせの中で伝わって来た「人体力学」とは、単に「見た目」や「型」を追求するものではなく、骨や関節や腱、内臓の状態、重心位置等を達人と同じにすることで、人体の可能性を100%引き出すためのものでした。武道に限らず、スポーツや、もちろんドラムにおいても「達人」と言われる人の動きは、本人が意識している、いないに関わらず、必ずと言って良いほど人体力学的に理にかなったものになっています。

次の表をご覧下さい。

しゃっ骨・とう骨の回転とグリップの変化

しゃっ骨・とう骨の回転とグリップの変化

このように、しゃっ骨・とう骨の回転を使う事で、グリップは多種多様に変化するのです。そしてバディ・リッチは、その原理を使っているために、スティックワークが見た目には派手にならざるを得ないのです。

しかし、ここまで説明をすれば、彼のスティックワークがけっしてショーマンシップなどではなく、実用性重視であることが分かって頂けたのではないでしょうか?

デイヴ・ウェックルが教則ビデオの中でフレンチ→ジャーマンと説明しているけど?

A.もう一度、ビデオをよくご覧になって下さい。

フレンチ(振り上げ) → アメリカン(ヒット時) → ジャーマン(ヒット後)

のようになっていませんか?回転しきってからヒットするのではなく、その途中でヒットすることに意味があるのですよ!

また、答えを言ってしまうと一番最初の動画のデニス・チェンバースのシングルストロークは、しゃっ骨を軸にして、とう骨を小刻みに回転させて行っているのですよ!

高校の物理で「角運動量保存の法則」を習った人が多いと思いますが、デニス・チェンバースはこの物理を利用して高速スティックワークを行っているに過ぎません。

小刻みに速く動かす場合も、大きくゆっくり動かす場合も、実は物理的なエネルギーは同じなのですよ!

NEXTまとめ:では、実際のプレイに生かしましょう!