39. ショルダームーヴ奏法

皆さんは、ドラマーのライブ演奏ビデオ等を見る時、どこに注目していますか?おそらく多くの方が「目で“スティックや手首の動き”を追う」という見方をしているのではないでしょうか?

「そんなの当たり前だよ」と言われそうですが、せっかく買ったビデオを“スティックや手首の動きを見るだけ”に使っていては、大変もったいないのではないでしょうか? 練習熱心なドラマーほど陥りやすいようですが、それでは見落としてしまっている「動き」が沢山あるはずですよ!

ためしに「音を消して」ビデオを観る「実験」をしてみて下さい。あなたが何度も繰り返し見慣れていたはずのビデオでも、ずいぶん印象が違って見えると思います。

そして、次は、スティックや手首よりも「指」に、指よりも「ひじ」に、ひじより「肩」に、さらには「胴体」に注目して動きを観察してみて下さい。「あれ?」と思うような、今まではまったく気付かなかった「動き」が沢山見えて来るはずです。

今回は、その中でも比較的わかりやすい「肩の動き」を有効に使った「ショルダームーヴ奏法」について、その「原理」と「意味」を解説していきましょう。

「ショルダームーヴ奏法」の達人は、なんといってもバディ・リッチではないでしょうか。ビデオが手元にあったら、(なかったら借りてでも!)ぜひチェックする価値があると思いますよ!

バディ・リッチの肩は、ドラムソロの最中等のハイテクニックな場面になればなるほど“一瞬も止まる事がない”ほど動いており、フレーズに応じて「左右の肩が同時に上下」したり「交互に上下」したり、さらには「回旋」したりと多種多様な動きを見せます。(まるで肩がダンスをしているかのようです!)

もし、「それって、ただの“クセ”とか“ショーマンシップ”なんじゃないの?」と思う人がいたら、同じように肩を動かしながらドラムソロをやってみて下さい。音やフレーズがギクシャクするだけでなく、とても叩きづらくて、まともな演奏など出来ないはずです。

では、なぜバディ・リッチは、肩を動かしながらスムーズな演奏が出来るのでしょうか?

それは、あの肩の動きが、けっしてクセなどではなく、フレーズ・ダイナミクス・移動・スピード等すべてを無理なくスムーズに行なうために、ショルダームーヴ奏法を最大限に活用している結果だからなのです。

音楽に集中して演奏すれば、肩なんて自然に動くんじゃないの?

A.はい、その通りです。演奏中、肩でリズムをとるドラマーは、当然肩が動いています。しかし、それは肩が単に動いているだけであって、ショルダームーヴ奏法とはまったく違います。

ショルダームーヴ奏法とは、肩の動きを積極的に使ってダイナミクスを付け、確実に「音」に反映させる奏法のことです。

それにしても、なぜ、あんなに肩を動かす必要があるのか不思議に思いませんか? また、このような動きをするドラマーは皆さんの周りにはいないのではないでしょうか?

実は、このような肩の動きこそが、ドラムセット全体に適用範囲を拡張した「応用モーラー奏法」を使ってドラミングを行っている際の特徴であり、逆にいえば、バディリッチの演奏は大部分が「応用モーラー奏法」によって行われているという証拠でもあるのです。(第30回参照

ショルダームーヴ奏法に関しては、バディ・リッチが一番分かりやすいとは思いますが、“ゆっくりな回転動作中心”のデイヴ・ウェックルやポンタさん、“上下運動主体”のパット・トーピー、“小刻みに振動”させるデニス・チェンバース等、超一流と呼ばれるドラマー達は、だれもが肩を有効に使ったドラミングを行っていますので、ぜひビデオでチェックしてみて下さい。
(注:教則ビデオ等の“レクチャー場面”ではなく、あくまでも“実演奏の際の身体の動き”を見て下さい)
NEXT肩の構造を再確認しましょう