37. 本能を刺激する音=身体共鳴

当然の事ですが、音は耳で聴きます。鼓膜の振動が有毛細胞を経て脳幹に伝えられ、脳で音を認識しています。

ところで、本当に音は鼓膜に伝わる空気伝導だけで聴いているのでしょうか? よく“腹に響く低音”と表現されたりしますが、この時実際にその「人間の骨盤が骨振動を起こしている事実」をご存知ですか?“頭のてっぺんに響くカン高い音”の場合は実際に「頭蓋骨が骨振動を起こしている現象」です。

この「骨伝導」を使う以外にも体毛,眼球等の高周波知覚や、精巣,子宮を含む内臓の低周波ゆらぎ知覚等でも音楽を認識する能力が本来私達にはそなわっているのです。ライブ演奏を会場で聴く方が、CD等よりも強く印象に残るのは、鼓膜の空気伝導以外にこの「身体共鳴現象」が強く発生するためです。

中でも低周波音は骨や内臓を直接振動させる力を持っています。“低周波公害”という言葉を聞いたことがあるかと思いますが、低周波音は落雷,地震,津波等の地鳴りや猛獣のうめき声等、どれも人間の生命を脅かすものに強く含まれています。

それゆえ私達人間のDNAには“低周波音の身体共鳴”を“生命の危険信号”として自律神経が認識するようプログラムされています。超一流ドラマー達はこの“危険信号”をドラムの音から引き出す事で、聴き手に身体共鳴現象を強く起こし、迫力や安定感を感じさせているのです。

デニス・チェンバース,ハーヴィー・メイソン,バディ・リッチetc…彼らの演奏を“生で体感”すると圧倒されてしまうのもこの理由です。

「良い耳を持て!」とはよく言われますが、音の認識をする際に耳の鼓膜の空気伝導と同じくらいの割合で「身体共鳴」を感じられるようになれた時、あなたの楽器選び,チューニング,音楽表現にまでも好影響を及ぼします。「身体共鳴」を感じられるという事が、ミュージシャンにとって本当の意味での「良い耳」なのではないでしょうか?

ドラミングにおいて“うるさく感じるだけのパワー”と“全身を揺さぶる音圧”では、人間のDNAに対する効果が異なってしまうため、音楽表現的にも全く別のものです。ドラマーだけに限らず「根本的に何かが違う…」と聴き手に感じさせるミュージシャン達は皆、この「身体共鳴現象」を応用しているのです。

皆さんも呼吸法にこの身体共鳴理論をからめた音楽表現を自分のものにしてみてはいかがでしょうか?

わかっているA氏の場合

本能を刺激する音 ドラム

スネアを叩いた時の脚の振動や、キックを踏んだ時の空気感等、耳だけでなく全身で音を判断。

パワーを上げても耳に痛い音にならず、聴き手の“本能に訴えかけるプレイ”が可能になり、言葉に表せない迫力を伝えることが出来る。また身体共鳴を残してパワーを下げることで、実際のバンド演奏の中でも“抜けの良いmp”を表現することも可能。(ドラマーだけに限らず、ギタリストのラリー・カールトンやヴァン・ヘイレン、ジェフ・ベック、ベーシストのアンソニー・ジャクソン等も、この“身体共鳴”を使うミュージシャン達です)

わかっていないB氏の場合

耳が痛い音 ドラム

音は耳で聴くものと信じているため、本来感じられる身体の振動に鈍感になり、耳のみでの判断となる。

「きれいな音を出したい」「音楽的なタッチを目指したい」と必要以上に“左脳”で考えすぎるタイプのドラマーが、このジレンマに陥りやすい。耳の鼓膜を過剰に意識し、そこで音を捉えようとするため身体の共鳴に意識が行かなくなってしまうのである。こうなるとパワーを上げれば上げるほど耳に痛い音になるので、パワーを下げる事で音をきれいにまとめ上げようとする傾向になりがち。しかしこの方法では実際のバンド演奏で音が埋もれてしまったり、線の細いドラミングになってしまう。事実、多くのドラムレッスンプロ及びそのドラムスクール生、マジメな個人練習大好きドラマーにこの傾向が強いと思いませんか?(ドラマーだけに限らず、スケール練習や運指練習大好きギタリストやベーシストも同様ではありませんか?)

身体共鳴に関して、こちらで、より詳しく解説しております。

2002年11月