40. ボディショット奏法

STEP4 ボディショット奏法の基本的なポジション

骨盤を動かすことで30cm以上もスティックを動かすことが出来ます

骨盤のポジションを写真中央の「レディポジション」から始めると、アップポジションにもダウンポジションにもすぐ移行出来て便利です。

日本国内では写真左のアップポジション(骨盤を一番起こした状態)のまま演奏する事が「良いフォーム」とされていますが、これは日本的奏法には「骨盤の動きを利用する」という発想が無いからではないでしょうか?

骨盤を寝かせると後ろに倒れてしまうのですが?

A.腹筋に力が入った状態で骨盤を寝かせると、たしかに後ろに倒れてしまいます。骨盤を寝かせる際には腹筋から力を抜いて横隔膜を上げることが必要不可欠です。

また、骨盤の角度が変化することで股関節(脚の付け根)の位置が変わることにも着目して下さい。このことはフットワークにも大きく影響してきます。(第8回参照)

骨盤のアップダウンだけでもショットは可能です

骨盤のアップポジションとダウンポジションには約30センチの高低差がありますから、骨盤の上げ下げだけでアクセントショットを行う事が可能です。この動作にショルダームーブ奏法(フレディーグルーバーシステムの“エロンゲーティングストローク”)を組み合わせると、スティックが手前に引き寄せられる為、さらに強力な「腰の入った音」を出す事が可能です。(第24回参照)

下の動画は、最も基本的なボディショット奏法に通常のモーラー奏法を組み合わせたエクササイズを収めたものです。

動画:ボディショット+モーラーによる5ストローク

このボディショット奏法により上半身の重さをフルにスティックに伝えることが可能となります。国内では、スティックをあまり振り上げていないのに大音量・大音圧で演奏するドラマーは「手首が強い」「スナップが強力」だとされていますが、けっしてそうではありません。彼らは「ボディショット奏法」を使って音圧を出しているのです。

また、「重さ」というと、どうしても「ゆっくりしたプレイ」にしか使えないと思われがちですが、大腰筋を使うことによって1/50秒という短時間で重さをかけることも可能です。

超一流ドラマー達が大音量・大音圧とスピーディーなプレイを共存できるのは、大腰筋あってこそと言えます。

ところで、「ボディショット奏法の達人」は身近な所ではPONTAさんではないでしょうか?ビデオが手元にあったら、(なかったら買ってでも!)ぜひチェックしてみて下さい。

PONTAさんの腰は、演奏中の激しい音楽表現部分やドラムソロが激しくなるほどに動きを増し、フレーズに応じて自由自在な変化を見せます。その様子は「骨盤ダンス」とでも言いたくなるほど見事です。

他にも、1992〜3年頃までの青山純さんはアクセントショットの殆どを「ボディショット奏法+ショルダームーヴ奏法」で行い、スティックをあまり振り上げずにスネアからタムまでを大音圧で演奏していました。

海外では“骨盤を小刻みに振動”させるデニス・チェンバース、“回転運動”主体のスティーヴ・ガッド、“ハイテクニックな演奏になると極端な骨盤のダウンポジションを多用”するヴィニー・カリウタ等、超一流と呼ばれるドラマー達は誰もが骨盤を有効に使ったドラミングを行っていますので、是非ビデオ等でチェックしてみて下さい。

骨盤を動かすと正しい姿勢が崩れるのでは?

A.そもそも『正しい姿勢』とは何かということが問題ですが、身体が「静止している時」と「運動をしている時」とでは『正しい姿勢』は全く異なります。

日本的奏法理論の最大の欠点は、実演奏中のフォームには必ず「動きの流れ」があり、それによって『慣性力が伴うという事実』を全く見逃してしまっている点にあると言えるのではないでしょうか?

静止時において背筋をピンと伸ばしているのは確かに「正しい姿勢」です。しかし、それを安直にドラミングに応用しようというのは「ノーガードこそがボクシングフォームの理想」と言うようなもので、大変無責任な“漫画的発想”です。

また、日本的奏法では“身体のブレ”や“猫背”は「言語道断」とされているようですが、バディ・リッチをはじめとしてスティーヴ・ガッドやジェフ・ポーカロ等の超一流ドラマーは実際に、その言語道断なことをして最高峰のドラムプレイを成立させています。

ドラムセットには多くの楽器が立体的に配置されているのですから、演奏中に胴体が動いたり重心位置が変化するのは当然と考えて『正しい姿勢』を見直してみてはいかがでしょうか?

最後に、これからボディショット奏法にトライしようという方々のために、注意点を挙げておきます。

  • むやみやたらに骨盤を動かすのではなく、「大腰筋を使って、股関節が動いた結果、骨盤が動く」ということを忘れないで下さい。
  • 腰痛になった場合は、以下の3つの原因が考えられます。
    1. 骨盤よりも先に腕を動かしてしまい、その反動で骨盤が動いてしまっている。
    2. 背骨の腰椎部を先に動かすことで、骨盤を動かしてしまっている。
    3. 大腰筋ではなく、腹筋・背筋やフトモモの筋肉を使って骨盤を動かしてしまっている。

※骨盤を動かすという行為は、大腰筋を動かす感覚があり、背骨や腕よりも先に股関節が動いていれば身体に負担はありません。もし腰が痛くなったりした場合は、上記の3つの原因のどれかに当てはまっているはずですから、すぐに練習をやめて下さい。

やみくもに骨盤を動かして身体に故障が出たとしても、K’s MUSICでは一切責任を負いかねますので、ご了承下さい。

当ドラムスクール生の中村康男さんです。CANNABIS(ワーナーミュージックジャパン)を経て新バンドMARMITE他サポートで活躍中!

★画像をクリックすると、ドラムソロ動画が見られます

さて、今回のボディショット奏法でも重大な役割を果たした『骨盤』『股関節』『大腰筋』の構造や動きは、当然ながらフットワークにはもっと直接的に影響してきます。

たとえば、股関節が「球関節」である以上フットワークは「回転運動」を基本に考えなければならないのはもちろん、「大腰筋」は足の裏の「足底筋」と繋がっていますから両者を分けて考えることは出来ないのです。

スティックワークと同様、フットワークに関しても、今後のドラミングアドバイスの中で詳しく解説していきますので、どうぞ、ご期待下さい。