10. グルーヴ術
最近、クリックに合わせて練習をするドラマーが増えていると耳にします。「リズムの存在を認識させる」という目的のみで短期間に(長くても2〜3ヵ月)この練習をするのは良いのですが、長期間続けてもそれ以上の効果は無く、逆に実際のバンド演奏では“表現能力が無い平坦なドラマー”になってしまいがちです。
つまり、この方法はリズムの躍動感やスケール感等のエネルギーをドラマーから奪い取る練習法とも言えるのです。そこで今回はグルーヴ術についてです。
(1)完全脱力→(2)右脳による音の記憶→(3)呼吸法
という3つのステップを踏まなければなりません。
まず(1)の完全脱力による筋肉を使わない奏法は「ドラミングアドバイス」第1回〜9回を参考にして下さい。
次に(2)の右脳による音の記憶についてです。人間は「音」のほとんどを右脳で判別して記憶しています。ですから右脳記憶が曖昧だったり、間違ったものの場合、身体に対して的確な指令を脳が出せなくなるためにグルーヴ表現が難しくなるのです。
そのためには、オーディオ機器の見直しも実は大変重要です。ラジカセ,ミニコンポ,カーステレオ等、音楽の密度感や音場等の解像力が低いオーディオでは音楽表現の細部まで再生されていません。結果として細部の右脳記憶が失われて大ざっぱなグルーヴしか表現できなくなってしまうのです。
ここまで来たら(3)の呼吸法の習得だけです。まずは基本原理から説明します。コーヒーカップを手に持って「咳」や「くしゃみ」をしたときに身体に「力」が入っていれば何も起こりませんが「完全脱力」していたら中のコーヒーをこぼしてしまうはずです。
つまり、「完全脱力」の状態では息を吐くだけで手足が勝手に動くのです。呼吸法を使ったドラミングとは人間が呼吸に使う「呼吸筋」の小さな伸縮を最大利用して呼吸で手足を動かす究極の人体力学奏法なのです。
「完全脱力による筋肉を使わない奏法」が必要不可欠となる理由は、体にほんの少しでも力が残っていると、それが呼吸筋にとって大きな負荷となるため、呼吸で手足を動かせなくなるからなのです。
「完全脱力」「右脳記憶」「呼吸法」を全てマスターしてこそ、フレーズに合わせて息をしたり唄うだけで手足が自由自在に動く「グルーヴドラミング」が可能になるのです。
1997年6月