41. フリーグリップシステム

STEP2 定形を持たないフリーグリップシステム

どうしてこのような勘違いした日本のグリップが生まれてしまったのでしょうか?

ではここで質問ですが、みなさんがビデオ等でグリップを確認する時、「どの瞬間で判断」していますか?

「打面をヒットした瞬間」は見えにくいせいか(1コマが1/30秒のビデオ等では映像がブレてしまい、確認は不可能です)「振り上げた瞬間」や「スティックがリバウンドし終わった瞬間」を静止画にして、グリップを判断する人がほとんどではないですか?

事実、ドラムセミナーや教則本等でも、この瞬間の見え方にもとづいて「誰それ風グリップ」というふうに解説されているのを、本当によく見かけます。

「実はここに大きな落とし穴があるのです」

振り上げた瞬間やリバウンドし終わった瞬間のグリップで判断してしまうのは、そもそも「ワンモーションの中でグリップの形が変化しない」という思い込みがあるからではないでしょうか?

(ここで言う「グリップの変化」とは「叩く瞬間に握る」というような日本的奏法とは全く異なります)

ここで、この動画をご覧下さい

動画:脱力した腕を振ると手の形は自然に変化する

動画のように、完全脱力して腕を上下させると、腕を振り上げた時と振り下ろした時で、自然に手の形が変化します。(肘の屈伸を使ったり、自分で手首を動かしてしまうと、動画のようにはならないので、要注意!)これにスティックを添えると、最初の動画の後半部のような動きになるわけです。

海外の超一流ドラマー達のグリップは、このように振り上げた時と振り下ろした時で変化する「フリーグリップシステム」が基本になっています。

いくら静止画にしてグリップを確認しても、動きの中でグリップが変化するという発想がないかぎり、超一流ドラマー達のグリップ原理は見えてこないのです。
(ジェフ・ポーカロやヴィニー・カリウタなどのグリップが、スティックを握っているというよりも「指の先だけでつまんでいる」ように、または「手に吸いついている」ように見えたという方は、なかなかスルドイですよ!)

実は彼らのグリップには、定まった支点箇所は一切ありません。なぜなら、明確な支点箇所を作ることはリバウンドの力を自身の指の力で妨げるばかりか、慣性力学の法則にも反するために、必ず力む結果となるからです。

ヒットの際にスティックと手にかかる慣性モーメントを最大限利用するためには、ワンモーションの中でも(一打単位でさえ!)手の形は必ず変化する必要があるのです。

物の道理として、支点を作ってある場所(打面)に力を加えると、その「反作用」で、支点にも「同じ力」が必ずはね返ってきます。ですから機械工学などでは支点箇所を増やして構造を複雑にしてまで「反作用によって起こる反発力を分散させる技術」が常識として使われています。

高速でピストンが上下動する自動車等のエンジンでは、エンジン内部の支点個所が少なくなってしまうとパワーが上がりません。F1に代表されるスピードを競うレーシングカーでは、エンジンもサスペンションも支点個所を増やして慣性の影響を受けなくさせる技術が当然として使われています。

しかし、パワーショベルのような支点個所が少ない機械は、ゆっくりと大きな力は出せても、素早く動かす事は絶対に不可能です。

超一流ドラマー達は、スティックを振り上げた時と振り下ろした時で「支点箇所がそれぞれ異なり、持ち方(グリップ)まで変化」しています。つまり「その時々の振り幅やスピード」によって起こる慣性力だけに任せた支点移動を常に繰り返してスティッキングを行なっているわけです。(彼らがもし、明確な支点個所を設けてしまったら、実力の半分も発揮できないのは、物理上明らかです)

そして、この特定の支点箇所を作らず、慣性力にまかせるグリップを行なう上で、最も重要となるのが「極端な脱力」です。通常は、いくら脱力といってもある程度の筋肉の緊張は必要だと考えられがちですが、フリーグリップでは「腕全体の重さ」も「パワーとして生かす」ため、ほんの少しの緊張もあってはならないのです。

5年以上も前の話になりますが、このレッスンを日本のトップスタジオドラマーに対して行った時そのドラマーから

今以上に脱力したら、スティックを持つことも出来ません!

という言葉が飛び出したほどです。

(後に、この方が業界内にK’s MUSICの話を広めて下さったおかげで、何人もの有名プロがK’s MUSICに入校されました。大変感謝しております。)

日本屈指のトップドラマーでさえ「これ以上の脱力なんて無理なんじゃないだろうか?」と最初は思ってしまうほどの脱力が必要になるのですよ!!ですから、みなさんがフリーグリップの有利性を生かしきるためには、想像を絶するくらいの脱力が必要かもしれませんね!

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