43. ひずみトーン、クリーントーン、ゴーストトーンの「タッチ」

STEP7 「ひずみ音」てダメな音なの!?

通常のドラム奏法の常識では考えられない、あり得ないことですが、超一流ドラマー達の音楽表現の多くは、その常識の外から生まれています!

みなさんは、「超初心者が力任せに叩いた」ような、「ひずんで潰れてしまったタッチ」をどう思いますか?このようなタッチは、一般的に「汚い」、「うるさい」、というイメージがつきまとうせいか、音楽的に使ってはいけないと考える人も多いようです。 しかし、K’s MUSICは声を大にして言います!

ひずみ音を積極的に使ってこそ、本当の音楽表現だ!と・・・

アマチュアドラマーの多くや、駆け出しのプロドラマーでさえ、雑誌記事等のメディアの影響からか、「タッチはキレイでなくてはいけない」、という先入観を植え付けられてしまっている様です。ましてや、「ひずんで潰れたタッチ」など、言語道断と思っている人も多いのではないでしょうか?

しかし超一流ドラマー達の音楽表現には、ひずみ音が欠かせないのを知っていましたか?

超一流ドラマー達は、「ひずんで潰れたタッチ」を、音楽表現のために使いまくっているのですよ!!

デニス・チェンバースや、ヴィニー・カリウタの生演奏を聴きに行ってみて下さい。 瞬間的すぎてわかりづらいかも知れませんが、雑誌記事やメディア等で言われている、「キレイなタッチ」という先入観を持たずに、よーく聴けば、ひずんで潰れているタッチの多さに、ビックリしてしまうと思いますよ!

確かに、ひずんでいる一音だけを取り出して聴いてみると、到底、音楽的に使えるようには思えません。

しかし、普通剛性のようなクリーントーンを、「タンタンタンタン」と聴かせたあとに一発、高剛性や低剛性によるアクセントを使って、「パーン!」とか「バン!」と叩くと、人間の耳(正確には「脳」ですが)は錯覚を起こして、その「キレイなクリーントーンのまま、突然大きくなった」と感じてしまうのです。

つまり、「タンタンタンタンーン」と同じ音でアクセントが入るより、「タンタンタンタンーン!」とか、「タンタンタンタンン!」など、違うアタック音でアクセントが響いた方が、より効果的に聴き手に訴えかけるのです!

超初心者は、やみくもに叩くせいで、効果的に使えていないというだけで、その「ひずんで潰れたタッチ」自体が悪いというわけでは、決してないのです。叩き方も、超初心者はやみくもですが、フリーグリップさえ使えれば、どこも痛くなったりはしないのですよ!

また、なぜドラムの音がひずむのかを、みなさんは知っていましたか?

当然のことですが、タイコにはヘッドが張ってあります。ヘッドが振動するのは、叩く事によって膜振動が起こるからです。その膜振動を起こすための入力の際(ヒットの際)には、必ずヘッドに「ゆがみ現象」が起こります。

ですので、ヒットの際には、ヘッドはゆがんで波をうってから、通常の膜振動に戻っているのですよ!

高剛性のアクセントでは、「スティックの硬さによるヘッドの耐入力オーバー」、低剛性のアクセントでは、「スティックの落下スピードによるヘッドの耐入力オーバー」が起こるため、この「ゆがみ」が極端に大きくなるのです。

そうすることで、ドラムから、ひずんだ音を引き出せるのです!

つまり、高剛性と低剛性のアクセントは、「通常よりも非線形倍音に近い波形」を、ドラムのアタック音により多く与えることで、瞬間的に「マスキング中で際立って遠鳴りする音」を発生させる奏法なのです。

スネアドラムが、他のタムなどに比べて、バンドの中で音ぬけが良いのも、「ひずんだ音やノイズ成分」がスナッピーによって多く作られているからなのですよ!

ひずみで彩りを加えよう!

クリーントーンである普通剛性は、確かに「一番正しい音」かもしれません。ですがよーく考えてみて下さい。それは声に例えてみれば、「NHKニュースの声」と言えるでしょう。しかし、その声と発音でもし「俳優がセリフ」を言ったとしたら、果たして人々を感動に誘うことができるでしょうか?

「NHKのニュースアナウンサー」の声や発音は、日本語として一番正しい事は明らかです。しかし、その声で感動できる人は、ニュースアナウンサーを目指し、その声が一番素晴らしいという価値観を、「教育によって植え付けられた人々」以外にはいない、と言えるのではないでしょうか?

これと全く同様にして、レッスンプロやその生徒さん達は、「普通剛性のクリーントーンこそが一番正しい音」と、信じて譲れない人も多い事でしょう。なぜなら「クリーントーンだけが正しい音」という価値観を、レッスンで植付け、そして植え付けられてしまっているからです。

ですが、それを声で例えるなら、前述の「NHKのニュースアナウンサーの声」のようなものです。しかし人々を感動に誘う、表現力豊かな名俳優や、声優達の声は、その正しい声(クリーントーン)だけでは決して成立しないのです。クリーントーン以外に「汚く歪んだ声」や「小さくささやく声」を瞬間、瞬間で使い分けて、人々の感動を呼んでいます。

それは音楽においても全く同じです。「汚く歪んだ音」や「聞き取りづらい小さい音」の中に、「正しい音」を混ぜるからこそ、よりその音を生かす事ができるのです。超一流と呼ばれるドラマー達は、日本のドラム教育界では、「絶対やってはいけないとされているタッチ」を瞬間、瞬間に使いまくる事で、表現力豊かな演奏を可能にしているのですよ!一見、音楽的ではないと思われがちなタッチをいかに使うかが、本当の意味での音楽性なのではないでしょうか?実際それを行うことで、ジェフ・ポーカロやピーター・アースキン、バディ・リッチなどのドラマーは、人々の賞賛を浴びています。

もちろんこれは、ドラムに限った話ではありません。一見クリーントーンに聴こえるリー・リトナーやパット・メセニー、ウェス・モンゴメリー等の、ジャズギタリストの音も、本当はひずんでいるのを知っていましたか?彼らはアンプの設定や、オーバードライブ等のエフェクターで、ほんのわずかに、ひずませた音作りをしているのですよ!一見クリーントーンに聴こえますが、ひずみをわずかに加える事で、倍音を豊かにし、ホールを包み込むような、甘いサウンドを奏でているのです。(この事に気付かずに、バンドの中で本当のクリーントーンを出して、音がペケペケしてしまっている、アマチュアのジャズギタリストを時折見かけますが・・・)

他にもジャズピアノのハービー・ハンコックや、デイブ・ブルーベックの音、管楽器のマイルスやコルトレーン、果てにはクラシックピアノの巨匠のホロビッツまで、よく聴き込めば、普通の奏者よりも、ひずんだ音を要所、要所でより多く使っている事を、確認できるはずですよ!

最近のプロのレコーディングでは、ボーカルの声に、なんと「ギター用のディストーション」をほんの少しかけて「歌声に迫力を加える」、なんて手法も平気で行われています。そうとは知らず、皆さんの中には、そんな歌声を聴いて、「なんて迫力ある歌声だ!」なんて感動したりしている人も、多いはずですよ!

日常においてもそうです。どの国のどんな人でも、「楽しい時」や、「悲しい時」、「喜んだ時」、「怒った時」には、「男も女」も、「大人も子供」も、よく聴けば、「普通より声がひずんでいる」のですよ!また、小さな声での会話で、「大きな声」を表現しようとした時にも、無意識に声をひずませて表現していませんか?そんな会話を、うるさい電車の中でしている人達がいた時、そのひずんだ声だけが、ハッキリ聴こえてきたりするのは、先にも述べた通り、ひずんだ倍音のある音は、「マスキングをかきわける力」が、強いからです。

他にも例を挙げればキリがありません。

「NHKニュースの声」の様な正しい日本語ばかりでは、「感情表現が成立しない」のと同様に、音楽でもキレイな正しい音ばかりでは、「音楽表現が成立しない」のです!

NEXT不安定音(ゴーストトーン)も積極的に使おう!