43. ひずみトーン、クリーントーン、ゴーストトーンの「タッチ」
STEP1 グリップ
「グリップでタッチが変わるので、サウンドも変わる」と多くのドラマーが言いますが、なぜサウンドが変わるのかをきちんと理解していますか?もしくは理解していたとしても、それを曲中で「常に変える」という発想がありますか?(1拍の中でさえ変える事は可能です。)
グリップでタッチが変わるのは、スティックと指の接触面積が変わるからなのですよ!
逆に「接触面積」を少なくするほど、スティック剛性が下がるため、音の立ち上がりが鈍くなり、ピッチも低くなります。
これは1998年5月掲載の、「ひと言レッスン第16回」で説明した内容ですが、これを読んで実際に試して頂けたでしょうか?
実はジェフ・ポーカロの、ドワンドワン(ドロンドロン?)した遠近感のあるタムのフィルインや、ハイハット、ライドシンバル等での遠近感あふれる表現は、「アクセント理論」で片付けられるものではないのです。 あの独特な遠近感ある表現のほとんどは、スティックの「剛性コントロール」によるものなのですよ!
またピーター・アースキンの一種あぶない感じの、緊張感あふれるドラミングも、アクセントと言うより、「スティック剛性コントロール」あってのものなのです。 フィリー・ジョー・ジョーンズや、全盛期のトニー・ウィリアムス、シェリー・マンの演奏ニュアンス表現も、日本国内のアクセント理論を使ったものではなく、「スティックの剛性コントロール」による所が大きいのです。
彼らは単に叩く強さだけではなく、「スティックの剛性」までもコントロールすることで、あの遠近感のある(ウネリのある)ダイナミクスを可能としているのです!
ですから、彼らのような超一流ドラマー達の、ウネリある表現力豊かなダイナミクスコントロールは、エレドラ等では絶対再現できないのです。
※ちなみに、デイヴ・ウェックルも「スティックが振動することによってドラムが振動する」と、自身の教則ビデオの中で言っています。
STEP2 剛性別の音色の特徴
低剛性
*スティックに青い絵の具を塗って接触面が分かりやすいようにしてあります。
アクセント
- スティックと手指の接触面積が、限りなくゼロに近い状態でアクセントをつけるには、手からスティックを「勢い良くはじき投げる(?)」事が必要不可欠。
- その結果、極端に速いスティックスピードが、打面との接触時間を短くするので、「バーン!」「ドーン!」とサスティーンの効いた、破裂音的なアクセント音が得られる。
- この低剛性アクセントから、どのタップに移行するにも、「フリーグリップ」ができていないと物理的に不可能。
- スティック自体の振動を妨げないため、スティックのバイブレーション(振動)が、ヒット後もしばらく残っているのも特徴的。
タップ
- 打面に当てる瞬間に、スティックと手指の接触面積を、限りなくゼロに近づけるのが理想。
- スピードはあまり必要ないので、「叩く」というより「リバウンドしたボールを拾う」ような感覚。
- この低剛性タップから、高剛性アクセントへ移行する場合は、けしてアクセントのためにスティックを振り上げない。
- これもスティック自体の振動を妨げないため、スティックのバイブレーション(振動)が指に伝わる。
普通剛性
*スティックに青い絵の具を塗って接触面が分かりやすいようにしてあります。
アクセント
- しっかりとした支点によるリバウンドなど、国内のドラム教則本などに記してある通り。
- 音色的には、いかにも“正しい音”という感じで、チップとヘッドの接触時間もごく普通。
- 「ドーン」、「ターン」という、楽器が本来持っている素直なピッチ感と響きを得やすい。
タップ
- これの叩き方も、国内の教本通りでOK。
- 音的には、「タカタカ」、「トコトコ」という感じで、ヘッドの音が素直に出る。
高剛性
*スティックに青い絵の具を塗って接触面が分かりやすいようにしてあります。
アクセント
- 叩くと同時にスティックを握るというより「叩く前にしっかり握って、叩いた瞬間には、もう手がゆるんでいる」のが基本。
- ヘッドを凹ませるつもり(実際には、ヒット時には指がゆるんでいるので凹みませんが…)で、ヘッドの膜振動にゆがみを生じさせる。
- 打面とチップの接触時間が、多少長めになるため「ドン!」「バン!」と衝撃音的に響く。
- 極端に超高剛性にすると、ヘッドの膜振動にゆがみが多く生じるため、音がひずむ。
タップ
- これも叩くと同時にスティックを握るのではなく、叩く前にしっかり握っておくのが重要!
- 叩くというより、「つつく感じ」に近い。
- 握っているのでリバウンドはしないが、非常に弱いタッチなので、手指が痛くなるということはない。
- この高剛性タップから低剛性アクセントに移行するのが一番難しく、「フリーグリップ」ができていないと物理的に不可能。