23. 筋肉を使わない奏法

 バディ・リッチが心臓発作を起こし、4度のバイパス形成手術を受けたのは彼が66歳の時でした。「半年~1年は休業しろ」という医者の言葉と「彼のドラマー人生は終わってしまった」と信じて疑わなかった多くの人々を尻目に、手術後たった54日で手術前と同じドラミングをイギリス公演で披露して驚かせた事は有名な話です

 その上「手術後5週目までは演奏してもカンが鈍っていたからもう駄目かと思ったよ」と信じられないようなコメントも残しています。 (この模様はDCIビデオ:バディリッチ・ジャズレジェンドPART2にも収録されています)

 通常「66歳で心臓手術」といえば高齢のために回復力も筋繊維も衰え、彼のようにデニス・チェンバースをもしのぐ「スピード&パワードラミング」を行う事は不可能なはずです。つまりこれらの出来事は彼の奏法が「いかに筋肉を使わない」物だったのかを実証しています。

 皆さんはバディ・リッチに限らず海外の超一流ドラマーの奏法は「もしかしたらフレディ・グルーバーシステムやモーラー奏法を中心に構成されているのではないだろうか」と感じた事はありませんか? それらは日本人ドラマーには決して見られない奏法です。

(唯一の例外として、日本を代表するトップドラマーのP氏が同じ原理の奏法を使っていますが…)

 特にフレディ・グルーバーシステムなどは「バディ・リッチ奏法の力学原理を構築化した奏法」としてアメリカではかなり有名ですが、日本ではその「奏法原理」どころか「奏法自体」も諸事情によってあまり表面化される事はありません。

 しかしヴィニー・カリウタを始めとして、現在でもデイヴ・ウェックル,スティーヴ・スミス,ニール・パートらの超一流ドラマー達が、フレディ・グルーバー氏の元にその奏法システムを習いに訪れている事からもその優位性が理解できるのではないでしょうか?

 通常の「日本的奏法」では、腕を振り上げる事も振り下ろす(叩く)事も腕の筋肉を使うのに対し、フレディグルーバーシステムでは脚,腰,肩などの「回転反動力」を「垂直上昇力」に変換して腕を振り上げ、「腕肩全体の重さをスティックにかけて叩く」という奏法原理を使っています

(成人男子の腕全体と肩の重さは6kg以上もあり、両腕肩では12kg以上の重さです)

 フレディ・グルーバーシステムやモーラー奏法(コースタイル系のものとは全く異なります)のスティックの軌道に「8の字スティックワーク」のような円運動ストロークが見受けられるのは実はこの「回転反動力を垂直上昇力に変換しているため」です。ですから安易にその軌道だけを練習しても意味が無く、実際の演奏では使い物にならなくなる理由もここにあるのです。

これらの「アメリカ的奏法」は、見た目のラインや姿勢よりも「身体の内部原理」を使った物なのです

(1999年5月)